森と庭の管理人(仮称)

副理事長.森と庭を管理する。

【造園家の目を持った林業家たれ】

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一応,大きな校正作業は終わったものの,

このギリギリになっていろいろ見つかったので,その修正をしていた。

読み直すと,ぎこちない日本語文となっている部分もあるため,

少し,解説できればいいなあと思っている。そのためにも,また勉強(汗

蛇足だが,昨年の手術が今ごろロウブロウのように,効いてきているようで,

先日病院へ担ぎ込まれ,点滴打って検査入院。なんだかなんだかである。

本文中,「造園家の目を持った林業家たれ」というような内容の一文あり。

森林風致とは,きっとこういうことなんだろうなあと思って読んでいた。

人間の保健休養のために自然を人間本位に操ることではなく,

林業経営目的以外に少しだけ,林木の自由な生育の担保のために,

コストを投下しましょうと書いてある。

林木個々が,順当に成長している姿こそが美しいという前提に立っている。

一例を挙げれば,収穫量最多伐期齢に達したからといって,短期で伐採しないで,

少し思慮を巡らせて,林内に少し老木を残しましょうなど。

老木が森林に存在する効用を,観光地や住宅地の環境を豊かにし,

当時でも地価が上がっていた「現実」を述べ,美観を重視した考えでもあるけれども,

その他,本文中随所に,森林動物の住処のために,とも記載してある。

森林動物の存在と森の豊かさの関係にも言及している。

(もっとも今の日本でこれを口に出すと怒られそうなのだが,

一般論として捉えて欲しい)

森林の豊かさは,とりもなおさず林木の成長にも関連する。

本書は300ページにわたって,林業のためのあらゆる営為に関し,林業家たちに

行きすぎた経営重視は,実は別のところで損失をしているのではないかと

思慮を巡らせることを喚起している。

美と功利の調和は,美的な配慮と森林経営,林木生理との折合いについて,

様々な提案や工夫が書かれている。こうした独特の技術に基づいて,

自身の所有林で実際に造林されたことがまず,当時としては新しかったのだと思う。

(現代でも珍しいと思うが)

先日発刊された村尾行一氏の「森林業」によれば,

エルンスト・ヘッケルによって「生態学」という言葉が作られ,

それがひとつの学問体系になるのは森林美学初版から半世紀ほど後のようで,

そんな時代に,現代の生態学的な成果にも合理な美しさを主張したザーリッシュの,

自然への深い観察に何度も驚いたものだ。

後年,「恒続林思想」でメーラーが方法論としての森林美学の妥当性を

述べているのも興味深く,かつ納得できることが多い。

 つい,長くなってしまった。この辺りは,またいずれ。

書きたいことは多いのだが,まだ整理されていないよう。

あー,しかし造園家の目を持った林業家かぁ… 頑張ります(汗

 

 

森林美学翻訳終了

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森林美学英訳版の日本語への翻訳がやっと終了した。

先日第7校を送付し,今は表紙デザインの打ち合わせ中である。

異例の編集期間がかかったこと,まずは関係者の皆様に感謝を申し上げる。

 

本書のテーゼ,「美と功利の調和」とは,では,そんなに無理な話なのだろうか。

話せば長いが,本書を紐解いてみると,技術的にはそんなに難しいことはない。

とにかく対象をよく観察し,人が手を入れる際には一貫して

「目の前にある自然」を利用すること,またその際には

「やりすぎない」ことに注意を払いながら,

一定の間隔を置いて観察を伴って山を経営していくべきだ,

現代の言葉で言えば,順応的管理をその要諦としている。

だから,別に目新しい話ではない。

そして要諦に沿った作業種,樹種選定,伐期,保育方法,更新など個々の項目ごとに,

その考え方やノウハウを細かく具体的に示している。

しかし,このノウハウが非常に論理的であったり,よく観察してあったりする,

手堅い森林管理の書であるからこそ,この時代においても3版まで重版がされたのだ。

ただ,本文中に文学作品の一節などが書き加えられている。

現場に出なければわからない体感的・経験的な部分を,

当時の素晴らしい文学者の言語芸術を用いることで読者に理解を促した,

と考えるられる。それほどに文学的な素養も垣間見られる良書なのである。

惜しむらくは,土壌など,地下部の解説があればよかったが,

この時代にやっと菌学などの発展がもたらされたことを思うと,

そうした解説は,後進の仕事であるとも言える。精進したいものである。

現在はポーランド領に位置する著者ザーリッシュの森林は,

著者に敬意が払われ,国の重要記念物に指定され,わずかながら現存する。

著者の意向に従って,固定的に一律な施業はなされず,

漸伐や択伐施業がなされ,林分によってフォワーダーや馬搬なども

状況に応じて柔軟に行われている。

施業林でありながら,地域の重要な観光資源として,レクリエーション利用に供し,

狩猟のためのマナーハウスも建てられている。

ザーリッシュの思いが,100年の年月を経て成就していると言えそうだ。

さらに「功利と美の調和」を実現した森林が,いかに有用か示しているとも言える。

http://www.wroclaw.lasyonline.pl/milicz.html

日本にこのような本が受け入れられにくい理由の一つに,

都市林や美しい施業林がほとんど見当たらないことがあげられる。

私自身も,大町の荒山林業を見なければ,この本のイメージは湧かなかった。

その荒山林業も,今は山主さんが亡くなり,管理者不在で根株腐朽が蔓延し,

おそらく数年以内にはその美しい姿も木材の価値も無に帰すことだろう。

多くの森林は,人とともにあって,人の利用に供し,人に愛される。

人生でこのような本に出会い,縁を得られたことをありがたく,大切に思い,

今後は,地道に静かに,人に寄り添う森林を作っていきたいと考えている。

  

Wood-wide web 菌根菌ネットワーク

毎年開催している,造園学会ミニフォーラム「森林美学の現代的意義」で,
ご登壇をお願いした澤畠さん(近畿大学)の発表のなかでもふれられていた,
菌根菌ネットワークに関して,わかりやすい動画がTEDに投稿されていました。

www.ted-ja.com


この動画を見ていてふと,Mollerの恒続林思想を思い出しました。
1925年刊行のA・Moller著 恒続林思想のなかの「森林有機体」と言う言葉は,
このシマード先生ご指摘のWood-wide webを含めて指していたのではないかと思ったからです。
非常に近いニュアンスを感じるのです。

さらに,シマード先生が「林業の方法の転換」と呼んだ方法も,

Mollerの提唱している恒続林を作ることだと言えるのかもしれません。
何しろメーラーは土壌動物や菌類の専門家だった上に,

Mollerは林学の名門エーバースワルデ(Forstakademie Eberswalde)の校長でしたから。

よく観念的で具体的な方法論が不明と言われるメーラーの施業方法は,

森林美学に記載されているザーリッシュの森林の取り扱いを

正解と位置付けていまして,なるほどこちらは具体的な取り扱い方法について,
詳細に言及されています。

このシマード先生の言われるような育林と収穫の方法がすでに,行われていて,

1885年の著書に書かれていたというのは,全く驚異的です。

 

 

 

 

【KunstとTechnik クンストとテヒニク】

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Kunstと言う言葉は,明治期にドイツ語の書物の中で,
西周によって「藝術」と訳された,日本では比較的新しい言葉だそうです。
当時のドイツ林学の中で,「Forst Kunst」という言葉があります。
日本では大正期に紹介され,「林業藝術」と訳されました。
林業にゲージュツとはけしからん!!と,
ずいぶん,当時のお偉いさんたちは怒り,
林業藝術論争なる,大げんかまで繰り広げられたそうです
私自身も,「技術」と「藝術」を一緒くたにするなんてと,
違和感を持っていたものです。

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さて,このドイツ語の「Kunst」。
前述したように,「藝術」には違いないのですが,
「藝術」を意味すると同時に,
語義は「技術,技巧」をも意味しているそうで,
ドイツではこのように,
「技術」と「藝術」の線引きが曖昧な部分があるそうです。
自由自在に技術を駆使し,美しく創造的な仕事をする。
ギルド制度から連綿と,ドイツの伝統でもあるとのことです。
また,ドイツのマイスター制度では,
技術が「Kunst」として能わなければ,認定がなされないとも聞きました。
これは当然のことであって,
「藝術」は本来技術,きめ細かい技巧の裏づけがなければ成り立ちません。
林業に「Kunst」という言葉を用いたのは,
こうした語義を考えるとごく自然なことだったのだと思いました。

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日本で「Kunst」に該当する言葉はちょっと思いつきませんが,あえて言えば
職人の工芸的な技能とでも言えばいいでしょうか。
真田丸の題字の,挾土秀平氏の仕事などは,
「Kunst」に当たるだろうと思います。
確かにあれは,「藝術」の域に達していますから。
一方で,工学・工業的な技術を表す「Technik」という言葉があります。
これは,「Kunst」と厳然と区別されているそうです。
昨日,ドイツ文学の大澤先生が弊社にお見えになって,
上記一連のお話を伺いました。
現行の林業は,なぜか「Technik」を重視しますが,
空間の特性上,林業は「Kunst」で行われる方が妥当ではないでしょうか。
我が師匠であり,心の友でもあった荒山雅行さんの林業の施業は,
明らかに「Kunst」の領域の仕事でした。

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さて,6月7日から2週間ほど入院します。
帰って復帰したら,たくさんの友人に手伝ってもらって,
私も,「Kunst」に値する山づくりを心がけたいと思っています。
お楽しみに!

【庭仕事淡々と】

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松本市のオープンガーデンに参加している弊社は,

この時期は大忙しです。

今年は,庭の一隅の小さい畑を「ポタジェ」にしてみました。

ジャルダン・ポタジェ(jardin potager)とは、

家庭菜園を意味するフランス語であり、

果樹、野菜、ハーブ、草花などを混植した

実用と観賞の両目的を兼ね備えた庭を指します。

森林も庭も,大きな意味では,同じ考えでつくっているのです。

管理人は6月上旬に,入院の予定がありますが,

無事退院した暁には,今年は例年より精力的に森づくりに励みたいと思います。

【鳥の鳴き声 マイスターへの道 】

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体調を崩したことを知り,色々な方から

暖かいお声がけをいただいています.

どうもありがとうございます.

毎日いろんな友人知人の皆様から,電話やメールをいただいて,

先週は大学の大先輩や地元の友人たち,一昨日は教え子ちゃんが,

そして今日は友人が遠方から職場へ来訪してくださったりで,

すでに,病気が治りそうな気がしています(オイッw)

なんだか暖かい気分になっています.春も近いですし^^

日常的には,ややスローペースですが,普通に暮らしています.

ひとまず都内の病院でもう一度検査を受けて,入院です.

入院は初めての経験で,まだ先のことだろうに,

いまから2週間ほどの時間をどう過ごすのか,途方に暮れて思案していましたら,

なんだかとても良いものを発見しました!

バードリサーチさんの「鳴き声クイズ」です.

鳥の鳴き声を当てるクイズなのですが,

練習段階からレベルが設定してあって,

初級は鳥単独の声,

中級は複数の鳥の声が聞こえるフィールドの音源で同定,

最後はインターネットのライブ音源での調査にも参加できる

超・親切設計になっています.

人生で初めての長期休暇とも言える時間ですが,

毎日の散歩も楽しめそうで,

入院前に,すでにはまりそうな予感がします^^

 

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【ご無沙汰していてすみませんでした】

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随分ブログを休んでいてすみませんでした.

年末から2ヶ月ほど,原因不明の微熱と貧血が続いて体調を崩し,

病院へ行き,現在療養生活を余儀なくされています.

激しい運動やたくさんの仕事は止められていますが,

ペースを落としてそれなりに生きています.

先日大学病院で検査を受けてきました.

その結果が3月上旬に出るそうです.

 

昨年の,荒山林業さんでの天然林施業の調査では,

林業大学校の学生たちと行った森林調査のデータと,

菌類の研究者と治山技術者の方々のご協力を得て,

調査地の地崩れのリスクや,ナラタケ病害のリスクについての

知見を得ることができました.

今まで全く馴染みのなかった専門家の知見によって,

故荒山雅行氏がどのように自然災害のリスクを鑑みて,

自然合理で美しい山を作る施業方法をおこなってきたのか,

すこしずつ解きほぐされていくようです.

とともに,現在普通に行われている林業施業とは,全く異質であるため,

驚くことがとても多いのです.

こちらもゆっくりペースで調査を続けたいと思います.

まずはとにかく復調,ですね.