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森と庭の管理人(仮称)

副理事長.森と庭を管理する。

森林美学翻訳終了

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森林美学英訳版の日本語への翻訳がやっと終了した。

先日第7校を送付し,今は表紙デザインの打ち合わせ中である。

異例の編集期間がかかったこと,まずは関係者の皆様に感謝を申し上げる。

それにしても,たった一冊の本で,長いドラマのような年月だった。

美を冠した書名は,著者の主観やナルシズムによって

林学や科学を愚弄したかのように誤解され,

戦後ろくに読みもしないで書かれた解説群により,内容は誤解され続け,

私たちに対する風当たりも決して弱いものではなく,散々だったが,

こんな泣きたくなる状況と気持ちをいつも癒してくれたのは,

100年も前の,一人のドイツ貴族の森林に対する高邁な思いを綴った文章だった。

本書のテーゼ,「美と功利の調和」とは,では,そんなに無理な話なのだろうか。

話せば長いが,本書を紐解いてみると,技術的にはそんなに難しいことはない。

とにかく対象をよく観察し,人が手を入れる際には一貫して

「目の前にある自然」を利用すること,またその際には

「やりすぎない」ことに注意を払いながら,

一定の間隔を置いて観察を伴って山を経営していくべきだ,

現代の言葉で言えば,順応的管理をその要諦としている。

だから,別に目新しい話ではない。

そして要諦に沿った作業種,樹種選定,伐期,保育方法,更新など個々の項目ごとに,

その考え方やノウハウを細かく具体的に示している。

しかし,このノウハウが非常に論理的であったり,よく観察してあったりする,

手堅い森林管理の書であるからこそ,この時代においても3版まで重版がされたのだ。

ただ,本文中に文学作品の一節などが書き加えられている。

これが,理系を自負する翻訳者の方々の頭を痛めたところだと思うが,これも,

現場に出なければわからない体感的・経験的な部分を,

当時の素晴らしい文学者の言語芸術を用いることで読者に理解を促した,

と考えるられる。それほどに文学的な素養も垣間見られる良書なのである。

惜しむらくは,土壌など,地下部の解説があればよかったが,

この時代にやっと菌学などの発展がもたらされたことを思うと,

そうした解説は,後進の仕事であるとも言える。精進したいものである。

現在はポーランド領に位置する著者ザーリッシュの森林は,

著者に敬意が払われ,国の重要記念物に指定され,わずかながら現存する。

著者の意向に従って,固定的に一律な施業はなされず,

漸伐や択伐施業がなされ,林分によってフォワーダーや馬搬なども

状況に応じて柔軟に行われている。

施業林でありながら,地域の重要な観光資源として,レクリエーション利用に供し,

狩猟のためのマナーハウスも建てられている。

ザーリッシュの思いが,100年の年月を経て成就していると言えそうだ。

さらに「功利と美の調和」を実現した森林が,いかに有用か示しているとも言える。

http://www.wroclaw.lasyonline.pl/milicz.html

日本にこのような本が受け入れられにくい理由の一つに,

都市林や美しい施業林がほとんど見当たらないことがあげられる。

私自身も,大町の荒山林業を見なければ,この本のイメージは湧かなかった。

その荒山林業も,今は山主さんが亡くなり,管理者不在で根株腐朽が蔓延し,

おそらく数年以内にはその美しい姿も木材の価値も無に帰すことだろう。

多くの森林は,人とともにあって,人の利用に供し,人に愛される。

人生でこのような本に出会い,縁を得られたことをありがたく,大切に思い,

今後は,地道に静かに,人に寄り添う森林を作っていきたいと考えている。