森と庭の管理人(仮称)

副理事長.森と庭を管理する。

【KunstとTechnik クンストとテヒニク】

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Kunstと言う言葉は,明治期にドイツ語の書物の中で,
西周によって「藝術」と訳された,日本では比較的新しい言葉だそうです。
当時のドイツ林学の中で,「Forst Kunst」という言葉があります。
日本では大正期に紹介され,「林業藝術」と訳されました。
林業にゲージュツとはけしからん!!と,
ずいぶん,当時のお偉いさんたちは怒り,
林業藝術論争なる,大げんかまで繰り広げられたそうです
私自身も,「技術」と「藝術」を一緒くたにするなんてと,
違和感を持っていたものです。

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さて,このドイツ語の「Kunst」。
前述したように,「藝術」には違いないのですが,
「藝術」を意味すると同時に,
語義は「技術,技巧」をも意味しているそうで,
ドイツではこのように,
「技術」と「藝術」の線引きが曖昧な部分があるそうです。
自由自在に技術を駆使し,美しく創造的な仕事をする。
ギルド制度から連綿と,ドイツの伝統でもあるとのことです。
また,ドイツのマイスター制度では,
技術が「Kunst」として能わなければ,認定がなされないとも聞きました。
これは当然のことであって,
「藝術」は本来技術,きめ細かい技巧の裏づけがなければ成り立ちません。
林業に「Kunst」という言葉を用いたのは,
こうした語義を考えるとごく自然なことだったのだと思いました。

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日本で「Kunst」に該当する言葉はちょっと思いつきませんが,あえて言えば
職人の工芸的な技能とでも言えばいいでしょうか。
真田丸の題字の,挾土秀平氏の仕事などは,
「Kunst」に当たるだろうと思います。
確かにあれは,「藝術」の域に達していますから。
一方で,工学・工業的な技術を表す「Technik」という言葉があります。
これは,「Kunst」と厳然と区別されているそうです。
昨日,ドイツ文学の大澤先生が弊社にお見えになって,
上記一連のお話を伺いました。
現行の林業は,なぜか「Technik」を重視しますが,
空間の特性上,林業は「Kunst」で行われる方が妥当ではないでしょうか。
我が師匠であり,心の友でもあった荒山雅行さんの林業の施業は,
明らかに「Kunst」の領域の仕事でした。

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さて,6月7日から2週間ほど入院します。
帰って復帰したら,たくさんの友人に手伝ってもらって,
私も,「Kunst」に値する山づくりを心がけたいと思っています。
お楽しみに!