森と庭の管理人(仮称)

副理事長.森と庭を管理する。

【そういう時代が来たのかもね】

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犬の散歩道の道路のそばで,ササバギンランを発見した。

都会では,希少種だともて囃されているこの種は,

ため池の横の,いつもゴミが捨てられている

斜面林の法尻でひっそり生きていた。

斜面林は,人工のスギ林や広葉樹二次林が放置されてひしめき合っていて,

近隣でも,怖くて汚いイメージがある場所だ。

しかしふと,その斜面林を見上げてみると,

なんだか程よく間伐され,小さな歩道がついていた。いつの間に…

一転して嬉しい気持ちになり,

改めてよく観察してみると,花なども植えられていて,

斜面上下に敷設されている道路を斜めに結ぶ,

ショートカット用小径として機能しているようだ。

ササバギンランの立地を考えると,

小さく伐採したことで,おそらく可食のキノコが発生するかもしれない。

使い道がなく,価値がないと言われていたこの森林を,

誰かが愛でて,誰かが使い,誰かに愛される。

そういえば,最近ゴミが減ったかも。

小さな手製の道は,小さく地域をつなぐに違いない。

そういう時代が来たのかもしれない。

 

参考:希少種ササバギンランの生育環境特性: 横須賀市久里浜におけるマテバシイ植林の事例(小嶋2014)

http://nh.kanagawa-museum.jp/files/data/pdf/nhr/35/nhr35_001-006_kojima_s.pdf

  

【在りし日の荒山林業山林_奥の院】

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2015年の荒山林業山林_奥の院

元は,有用広葉樹を残しつつ,薪炭利用をしていたミズナラとその他広葉樹の林地。

薪炭利用が廃れたのを機に,徐々に残存させる林木を増やして,

現在のような森林構造になっていったと思われる。

一般の方々はともかく,

多くの林業人は,通直な広葉樹群に驚く。

荒山雅行さん曰く,好きな樹種を残して,少しだけ手を加えたとのことだ。

どのように手を加えたのかは,亡くなった今では知る由もない。

2015年時点で,オニナラタケを確認した。

また,根状菌足やナラタケ菌に寄生するツチアケビの大きな群落も散見した。

地形図と踏査,古い資料から,ここは以前尾根部分が崩落し,

堆積した立地であることがわかった。

また,相当数の湧水点も確認し,地下水位が高く,

菌害に見舞われやすい立地であることがわかった。

こういう場所を,以前,県の普及の方が「スギ林に転換した方がいい」

と言うご指導をされたということだが,

この立地をスギ単相林にしなかったのは,達見と言えると思う。

針葉樹は一般に菌害に強いと言われるが,無敵ではないからだ。

コストをかけて林地を造成しても,地滑りのリスクも高い。

その後も荒山さんは,丁寧に,単木ごとを観察しながら行う広葉樹施業で

この林地を作っていった。

折に触れ,荒山さんはここに案内してくださり,

林木1本1本の解説をしてくださった。

ここは,菌害も多い一方,可食きのこも多く発生するため,

これらを林産物として販売をし,菌害の菌資源への転換を図っていたようだ。

亡くなる半年ほど前,「ここは早く伐りたい」としきりに言っていたが,

調査に入ってやっとその理由がわかった。

ご存命の時からツチアケビが増え始めていたからだった。

2016年の調査では,相当数,クリの腐朽による倒木が確認できた。

おそらく今後,どんどん腐朽が進むに違いない。

残念ではあるが,見方を変えれば,森林が主人を失って

次のステージへ移行しようとしているとも言える。

地滑り地の根株腐朽菌害については,70年代に北大の東先生がそのご著書で

少しだけ触れていた。

その前には,今関六也先生が天然広葉樹林の菌害に触れていた。

実際に拝見させていただき,調査をし,初めてその意味が少し理解できた。

 

単木ごとの環境は異なる

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一昨年は,荒山林業山林の天然林施業の調査を,

去年は,きのこ山施業地を調査する仕事をさせていただいた。

先日は,樹木医さんたちの講習会に参加させて頂き,

菌根菌についての講習を受けてきた。

大学では,ヘクタール単位の広がりで森林の管理を学んできた。

そこでは,一応ヘクタール単位での環境条件は均一,

ないしは考慮に入れなければならないほど異ならないと言う前提であった。

しかし,調査をしてみると,

地形,地質,土壌,水文に依拠する林地の環境は,

実は微細に異なり,単木ごとにその地下部の環境はかなり相違することを,

再認識した。

荒山林業の荒山雅行さんは,林内を案内してくださる際には,

単木ごとに説明してくださった。

その様子を見て,「あの人は貴族的な趣味で林業をしている」

と言う人もいた。しかし,そうは思わない。

メーラーが森林有機体と言っていたのは,

根から大気の水分などの物理的な循環というよりも,

こうした地下から地上への生物的な循環を指したのではないだろうか。

であるとすれば,単木ごとに配慮し,手入れを行うのは当たりではないかな。

特に,広葉樹の場合は。

樹木の細根や土壌動物,菌根菌が活躍する表層土壌の厚さだけでも,

わずか数メートルの間に数倍の差がある。

村尾行一氏の近著にて,メーラーの理論はむしろ広葉樹向きとの事だったが,

私も同感である。

 

 

愛読書

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読書をもっとしたいと思うのだが,なんだか毎日時間が足りない。

ブログを書く時間もなかなか取れないが,

写真掲載を多用しながらでも,少しずつ書きたい。

さて,自分は本は比較的よく読む方だと思う。

その中でも,特に好きな本である「A Rchier FOREST 」

スエーデンでは,1993年に森林法の大改正が行われ,

環境と生産は同等の重みでもって森林は管理されなければならない

と銘打地,ミニマムな規制をベースにしながらも,

森林所有者に対しては「非規制政策」を行っているそうだ。

この本は,森林所有者に森林法の大改訂と,

その元で行われるべき森林管理を普及するために作られた冊子の翻訳版という。

環境を重視するからといって,一斉皆伐型林型を否定せず,

その中で生物的なリソースをいかに保全するかの具体的方法論が提示されている。

もちろん,合自然的施業についても言及されている。

森林管理の方法を所有者に委ねる代わりに,所有者に情報を提供することで,

国の森林管理を行おうとしているようだ。

この政策は大成功はしなかったそうだが,

それでも,一定の功は奏しているとのこと(柿沢 2013)。

職場では3冊購入し,所蔵している。

 

 

 

 

 

先を見る

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写真は某所でのナラ枯れ激甚地。関西にて。

林床植生を刈り払い,歩きやすいコナラ二次林を造成していたらしい。

ナラの多くがナラ枯れに罹患しているので,上層のコナラが枯れた後,

次世代木が育つには,まだ相当かかりそう。

人間の利用,しかも林木を利用するのではなく,自然遷移をも無視して

里山景観利用という人間本意の森林を造成するというのは,

こういう結果を生みやすい。

先のことを考えて山をつくる。

ただ伐って捨てないで,ちゃんと利用して維持する。

簡単なようで,割と難しい。

 

 

もうちょっと

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こちらの校正作業が終わって,

これから訳者の皆様へチェックをお願いするとのことらしい。

いくつか,素晴らしい訳者の方の文章に出会えて

ザーリッシュの理解が深まったこと,

こっそりたくさん感謝です。

まだ,もうちょっと作業がありそうです。

そうそう,造園学会のミニフォーラムで,

今年もまた「森林美学の現代的意義」やります。

一番最初にフォーラム立ち上げをし,お声をかけてくださったU先生には,

お礼の言葉もありませぬ。ありがとうございます。

まだ,たくさんお礼,完成してから直接お礼を申し上げたいです。

フォーラムは,今年は現場での具体的技術についての討論です^^

http://www.jila-zouen.org/wp-content/uploads/2017/04/jila_2017_forum.pdf

ぜひ,お立ち寄りください^^

 

【造園家の目を持った林業家たれ】

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一応,大きな校正作業は終わったものの,

このギリギリになっていろいろ見つかったので,その修正をしていた。

読み直すと,ぎこちない日本語文となっている部分もあるため,

少し,解説できればいいなあと思っている。そのためにも,また勉強(汗

蛇足だが,昨年の手術が今ごろロウブロウのように,効いてきているようで,

先日病院へ担ぎ込まれ,点滴打って検査入院。なんだかなんだかである。

本文中,「造園家の目を持った林業家たれ」というような内容の一文あり。

森林風致とは,きっとこういうことなんだろうなあと思って読んでいた。

人間の保健休養のために自然を人間本位に操ることではなく,

林業経営目的以外に少しだけ,林木の自由な生育の担保のために,

コストを投下しましょうと書いてある。

林木個々が,順当に成長している姿こそが美しいという前提に立っている。

一例を挙げれば,収穫量最多伐期齢に達したからといって,短期で伐採しないで,

少し思慮を巡らせて,林内に少し老木を残しましょうなど。

老木が森林に存在する効用を,観光地や住宅地の環境を豊かにし,

当時でも地価が上がっていた「現実」を述べ,美観を重視した考えでもあるけれども,

その他,本文中随所に,森林動物の住処のために,とも記載してある。

森林動物の存在と森の豊かさの関係にも言及している。

(もっとも今の日本でこれを口に出すと怒られそうなのだが,

一般論として捉えて欲しい)

森林の豊かさは,とりもなおさず林木の成長にも関連する。

本書は300ページにわたって,林業のためのあらゆる営為に関し,林業家たちに

行きすぎた経営重視は,実は別のところで損失をしているのではないかと

思慮を巡らせることを喚起している。

美と功利の調和は,美的な配慮と森林経営,林木生理との折合いについて,

様々な提案や工夫が書かれている。こうした独特の技術に基づいて,

自身の所有林で実際に造林されたことがまず,当時としては新しかったのだと思う。

(現代でも珍しいと思うが)

先日発刊された村尾行一氏の「森林業」によれば,

エルンスト・ヘッケルによって「生態学」という言葉が作られ,

それがひとつの学問体系になるのは森林美学初版から半世紀ほど後のようで,

そんな時代に,現代の生態学的な成果にも合理な美しさを主張したザーリッシュの,

自然への深い観察に何度も驚いたものだ。

後年,「恒続林思想」でメーラーが方法論としての森林美学の妥当性を

述べているのも興味深く,かつ納得できることが多い。

 つい,長くなってしまった。この辺りは,またいずれ。

書きたいことは多いのだが,まだ整理されていないよう。

あー,しかし造園家の目を持った林業家かぁ… 頑張ります(汗